横浜国立大学 エネルギー機器材料研究室

研究課題

当研究室では,材料科学,材料力学を基礎として,エネルギー機器や自動車に用いられる材料の信頼性向上と高性能化に関する研究を行っています.最近の主な研究課題は次のとおりです.

1.構造用セラミックスの自己き裂治癒に関する研究

 セラミックスは,高温強度や耐食性に優れているために高温エネルギー機器等への適用が大きく期待されています.しかし,現時点ではその適用範囲は制限されています.この原因は,表面に存在するき裂が強度を大幅に低下させるためです.これらの問題に対する最善の方法は,加工時や稼働中に生じたき裂を自己治癒できる材料を開発することです.このような観点から,当研究室では「構造用セラミックスの自己き裂治癒」に関する研究を行っています.現在は3Dプリンタで作製したセラミックスの強度・信頼性向上の研究を行っています.

き裂治癒のメカニズム

高温・曲げ応力下における
き裂治癒のその場観察装置

き裂治癒のメカニズム

き裂治癒のメカニズム


高温顕微鏡によるセラミックスの自己き裂治癒挙動の直接観察

高温顕微鏡によるセラミックスの自己き裂治癒挙動の直接観察(Si3N4/SiC)

2.3Dプリンタで製造した金属の疲労強度向上

 3D積層造形技術は複雑形状を容易に形成可能であるため,革新的技術として注目されています.一方で,この技術では積層造形中に欠陥が形成され,この現象による材料の疲労強度低下が問題視されています.本研究室では,疲労強度向上手法として知られるレーザピーニングを利用し3D積層造形材に圧縮残留応力を導入することで,その疲労強度を向上させることに成功しました.この技術を用いることで,3D積層造形材の長期的な信頼が確保できます.これにより,革新的技術である3D積層造形の利用拡大が期待できます.

レーザピーニング

レーザピーニングによる3D積層造形したマルエージング鋼の疲労強度向上

3.ショットピーニングによる鋼の疲労強度向上と表面き裂の無害化

 エネルギー問題や地球温暖化を背景として,輸送機器の燃費改善に対する要望が年々高くなっています.燃費を改善するためには,輸送機器用の部品の軽量化が必要です.そのためには,部材のさらなる高強度化が必要不可欠です.しかし,鋼は高強度になるほど表面欠陥や介在物に対する感受性が高くなるという問題があります.当研究室では,疲労強度低下の要因となる表面欠陥を,ショットピーニングなどのピーニングによって導入される圧縮残留応力により無害化できることを明らかにしました.この成果は,自動車等の輸送機器用部品の信頼性を大幅に向上できると期待されます.

ショットピーニングにより表面欠陥を無害化する手法の提案

ショットピーニングにより表面欠陥を無害化する手法の提案

ショットピーニング装置

ショットピーニング装置

4.溶接継手の疲労強度向上と延命化技術の開発

 橋脚等の大型鋼構造物では,溶接部等の劣化が顕在化してきます.特にこれらの部品には長期間にわたり繰返し応力が作用するために,高い疲労強度と信頼性が要求されます.しかし,溶接時の熱影響のため溶接部には引張応力が残留し,その部分から疲労き裂が発生し損傷に至る事例が報告されています.しかし,疲労き裂が発生したとしても,これらのき裂を強度上無害化できれば,鋼構造物の信頼性向上のみならず保全費用の大幅な削減が可能になると期待されます.そこで,本研究室では,可搬性のあるピーニング装置を用いて,溶接部における疲労き裂を無害化し,延命化する技術を開発しています.

溶接継手に発生した疲労き裂の模式図

溶接継手に発生した疲労き裂の模式図

ピーニングによる圧縮残留応力の導入でき裂を無害化

ピーニングによる圧縮残留応
力の導入でき裂を無害化

疲労試験片および試験機

疲労試験片および試験機

5.化学・エネルギープラント用配管の強度評価に関する研究

 近年,化学プラントやエネルギープラントで使用される配管の高経年化にともない,局部減肉が問題となっています.特に局部減肉が発生しやすいとされる,オリフィス付き配管,ティ配管,エルボ配管の内面に局部減肉を導入した試験体を用いて強度試験や有限要素法を用いたコンピュータ・シミュレーションを実施しています.

 地震多発国である日本においては,配管の耐震性を高精度で予測することが求められます.そこで,当研究室では局部減肉を有するエルボ配管等の内圧下における低サイクル疲労試験および有限要素解析を実施し,き裂発生および進展挙動の詳細を解明しています.当研究室において提案されら修正共通勾配法と呼ばれる低サイクル疲労寿命評価手法を用いることにより,疲労き裂発生位置や低サイクル疲労寿命が高精度で予測できることが明らかとなっています.

局部減肉を有するエルボ配管の低サイクル疲労試験
エルボ配管の低サイクル疲労試験
(左:試験体と試験機,中:エルボに発生した疲労き裂,右:有限要素解析によるシミュレーション)

PAGE TOP